京都地方裁判所 昭和44年(人)3号 判決 1969年8月08日
請求者
X
代理人
坂元和夫
拘束者
Y
被拘束者
A
特別代理人
井上治郎
主文
被拘束者を釈放し、請求者に引渡す。
本件手続費用は拘束者の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求者が主張するとおり、拘束者と内縁関係をむすび、婚姻の届出をなし、両名の間に被拘束者をもうけたこと、および請求者のいうとおり、拘束者が被拘束者を現在にいたるまで監護していることは、いずれも、当事者間に争いがない。
そこで、<証拠>を総合するとき、拘束者は前記のように同棲したものの、定職を持たず住居も移りがちであつたが、請求者の実家である玉越清孝方へ寄寓してから二月目の昭和四四年二月恐喝の罪で逮捕せられるにいたり、請求者においては母乳が不足し、人工栄養で被拘束者を養育しながら、同年三月ごろいらい拘束者と離婚することの決意を固め、現在それの調停を申立てる準備をしていること、拘束者は同年六月三〇日身柄拘束者は同年六月三〇日身柄拘束のまま京都地方裁判所で懲役一〇月執行猶予三年の刑に処せられ、即時身柄を釈放せられ、それから七日目に請求者の父親に対し請求者との復縁を求め、拒絶されると、庖丁を自己の腹部に突き刺すという事態が生じたこと、請求者はそれに対応し、同年七月一〇日被拘束者を連れ友人の藤原陽子方(京都市伏見区見区西浜町七二二番地の二)へ泊つたところ、請求者のいうとおり、翌一一日午前七時三〇分ごろ拘束者が同女をだまし、請求者の承諾を得ないで被拘束者を引渡させ、自己の肩書地に連れ去つてしまつたこと、および拘束者は、現在工務店に勤務して給与をうけ毎日午前八時ごろから午後五時ごろまでの間は、主として、拘束者の母親で人工栄養児の養育に経験がなく不馴れな乙が被拘束者を監護養育しているのに対し、請求者のがわでは、二、三年の間バーのホステスをして収入を得るとともに、午後八時ごろから午後一二時ごろまでの間は請求者の母親である玉越八重に被拘束者の監護養育を依頼し、それ以外は自ら監護養育に当るつもりであることが、一応認められ、これを覆えすに足る疏明はない。
二そうすると、請求者と拘束者との夫婦関係が事実上全く破綻しているおりからであるにかかわらず、拘束者は、父親としての愛情だけで被拘束者を請求者のもとから連れ出し自己のもとに置いているとはいえ、被拘束者は、現在人工栄養による乳児の養育に不馴れな拘束者の母親によつて殆んど養育されているわけで、請求者には期待される養育と比較し、行き届かないところのあることが窺われるとすれば、被拘束者を父親である拘束者に監護養育させるよりも、母親である請求者に監護養育させるほうが本人のため幸福をもたらすみちであると断ぜざるをえなく、拘束者の同上の拘束は不当なものというべきである。(請求者は前述のとおり拘束者と離婚することを決意しているというのであるから、いずれ両者の協議または法定の手続により被拘束者を監護すべきものが定められるわけではあるが、それまでの措置としても、被拘束者を母親である請求者のもとで監護養育するほうが、本人にとつて幸福であることが明らかである。)
三しかも、前認の事実によれば、拘束者は、請求者の意思に反し適法な手続によらないで、共同の親権に服する被拘束者を排他的に監護するものであつて、それ自体適法な親権の行使といえないこともちろんである。
四そうだとすれば、拘束者の被拘束者に対する現拘束は不当であつて、それが顕著というべきであるから、請求者の本件請求は理由があるものとしてこれを認容することとし、手続費用につき人身保護法第一七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(松本正一 常安政夫 赤木明夫)